日々の経理において、収益・費用は発生主義で記帳するのが原則です。
厳密には収益は「実現主義」という方法ですが、この記事ではまとめて発生主義と書いておきます。
発生主義というのは、取引の発生に基づいて収益・費用を計上する方法を言い、売掛金・買掛金などを計上します。
これに対して現金主義というのは、実際にお金の収入・支出があった時に収益・費用を計上する方法を言います。
現金主義の下では売掛金、買掛金などを計上しません。
1、厳密な発生主義
改めて、発生主義について説明します。
例えば、会社や個人事業主の日々の取引で商品を販売した時点と商品代金を受け取る時期にはタイムラグがある場合があります。
年季のある食堂など、レジで現金でしか支払いができない場合であればそうはなりません。
しかし、実際には殆どの業種で多かれ少なかれ、販売時点と入金時点にズレが生じます。
現金主義の下では入金があった時点で次のように仕訳します(金額が 50,000円の場合)。
それに対して発生主義の下では、入金時点ではなく販売時点が属する月の収益として計上します。
ここで売掛金を使った以下の仕訳を起こします。
さて、この売掛金ですが入金があったときは
と記帳することによって、前月末に計上した売掛金が相殺されて消えます。
このように、毎月入金ではなく発生の事実に基づいた売上の計上を繰り返すわけですね。
これを「厳密な発生主義」と呼んでおきます。
2、決算時のみ発生主義
さて、先ほど発生主義の下で入金があったときに売掛金が相殺されて消えるという話をしました。
トータルで見れば
という現金主義の仕訳を起こしたのと同じことになるわけですね。
これを上手く使って1つの期の中で、決算時以外の期中は現金主義で記帳しておいて決算時のみ発生主義で売掛金・売上を計上するというやり方もあります。
これでも1年間トータルで見れば厳密な発生主義を行った場合と売上の合計額は変わらないので問題ありません。
3、「厳密な発生主義」と「決算時のみ発生主義」のメリット・デメリット
さて、「厳密な発生主義」と「決算時のみ発生主義」の2つがあるわけですが両者のメリット・デメリットをお話ししたいと思います。
厳密な発生主義のメリット・デメリット
厳密な発生主義のメリットはやはり正確性でしょう。
月々の試算表を出す場合など、月末に売掛金・売上、買掛金・仕入をしっかり計上することによって実績がはっきりとします。
粗利、営業利益率、経常利益率といった分析指標も売掛金・買掛金を計上してこそ意味のあるものです。
一方でデメリットは毎月末に売掛金・買掛金の額を把握する手間がかかるのと、計上した売掛金・買掛金について入出金があった際の消し込みも労力がかかる点です。
クラウド会計ソフトを使えば売掛金・買掛金の消し込みの労力は少しは解消されます。
決算時のみ発生主義のメリット・デメリット
決算時のみ発生主義メリットは、期中は現金主義であるため売掛金・買掛金把握の手間がかからず時間を節約できる点です。
一方でデメリットは、月々の実績がはっきりせず粗利、営業利益率、経常利益率といった指標が正確でなくなる点です。
決算時には売掛金・買掛金を計上するので1年間トータルで見た場合の分析指標は厳密な発生主義と変わりないです。
4、まとめ
「厳密な発生主義」と「決算時のみ発生主義」どちらもメリット・デメリットあります。
個人的には、まず会社の経営分析をしっかりやりたい人は厳密な発生主義の方が良いと思います。
月々の試算表を銀行に提出する場合なども、厳密な発生主義の方が良いでしょう。
ただ、厳密な発生主義をとる場合はそれなりに労力がかかることを覚悟しなければなりません。
(役員が経理などを兼ねてやっている場合はけっこう大変です。)
一方で、売掛金・買掛金の金額が小さかったり、あまり経営分析する必要性が無いと考える場合であれば決算時のみ発生主義でも良いと思います。
必要に応じて選択するべきでしょう。